ふくろうのゲームレビュー

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コマンドRPGにおける戦闘のマンネリ化を防止する手法ついての検討

 

1 はじめに

コマンドRPGの発展は、プレイヤーの「飽き」をいかに克服するかというゲーム制作者の苦悩と共にある。DQやFFといった有名タイトルを始めとして多くのコマンドRPGが発売されてきたが、プレイ中の飽き、とりわけ戦闘のマンネリ化の問題は度々指摘されるところである。
ゲーム開始直後は楽しみながら丁寧に行なっていた戦闘も、数十回と繰り返すうちに徐々に億劫になっていき、攻撃コマンドを連打する指が速くなっていく…*1。このような経験をしたことがあるプレイヤーは多いだろう。
マンネリ化した戦闘はただただ退屈で面倒な作業と化す。それゆえ、あらゆるタイトルにおいて戦闘を面白くする工夫、マンネリ化を防止する手法が取り入れられている。しかし残念なことに、そうした手法の全てが効を奏しているとは言い難いことは種々のゲームレビューより明らかである*2
本稿では、そのようなこれまでに取られてきたマンネリ化防止手法に対する評価検討を通じて、いかなる手法が戦闘のマンネリ化防止に対して有効であるかを考察する。

 

2 戦闘のマンネリ化の原因

マンネリ化の問題はあらゆるゲームにおいて常に付いて回るが、ことコマンドRPGにおいてはこの問題が顕著に現われる。すなわち、一般にコマンドRPGにおいてはゲーム進行が静的で、プレイヤーの行動も提示されたコマンドを選択することのみであり、しかもゲーム全体を通じて何度も同一形式の行動を繰り返すことになる。そのため、動的でプレイヤーの行動選択の幅が広いアクション系ゲーム等と比較して単調になりやすく、戦闘回数を重ねるにつれ戦闘がマンネリ化することは程度の差こそあれ不可避的である。
戦闘のマンネリに関わる要素を特定しようとすると、論者によって様々な捉え方が可能であろうが、本稿ではプレイヤーに与えられる刺激の有無、増減に着目し、これを検討の視座とする。戦闘の難易度が高く常に緊張感が感じられる場合には強い刺激が維持されることになり、戦闘に新たな要素が追加された場合にはその都度刺激が追加される。反対に、全ての戦闘がスライムをひのきのぼうで攻撃するだけのものであった場合、そもそもの刺激が弱い上、新たな刺激が何ら追加されないため、戦闘を経る度に刺激は低下していく一方である。そして、ある一定の程度まで刺激がなくなったとき、マンネリ状態となる(そのようなものとして捉える)。

 

3 具体的な手法についての検討

以下では、コマンドRPGにおける戦闘のマンネリ化防止に一定の効果を発揮すると考えられる手法を挙げ、評価検討を加える。ここで取り上げる手法は、本来必ずしも戦闘のマンネリ化防止に主眼を置いたものではなく、全く異なる意図でゲームに盛り込まれたものもあるだろう*3。しかし、本稿は戦闘のマンネリ化防止に有効な手法を検討する試論であることから、本稿ではその手法の本来的意図を捨象して、広く検討対象とすることとする。

 

3-1 設定の工夫

3-1―1 相性

プレイアブルキャラと敵キャラに強みや弱点を設定し、相性を生じさせることで戦闘における戦術性を演出する手法が多くのコマンドRPGで見られる。火水草のような三角関係や物理と魔法の二項対立等様々なものが見られるが、いずれもひたすら「こうげき」コマンドを選択していれば戦闘に勝利できるといった単調な戦闘となることを回避し、戦闘の度にプレイヤーが敵キャラに合わせて選択すべきコマンドを考えることができる点でプレイヤーに刺激を与え、戦闘のマンネリ化防止に効果があるといえる。
しかし、このようなプレイアブルキャラと敵キャラの相性の設定には限界がある。例えば、火水草のようなタイプが数種類であれば遊びやすいが、それが数十種類ある場合、プレイヤーとしては攻略のために考えなければならないことが多くなり、マンネリ化はしづらくなるだろうが、反面、遊びづらさを感じる原因となる。そして、相性の設定として三角関係程度のものが限界かつ最適であるとすると(現に三角関係の相性を設定しているタイトルは多い)、数回の戦闘でプレイヤーはコマンド選択において相性についてほとんど考える、悩むことがなくなり、機械的・半自動的にコマンドを選択することとなり、プレイヤーの飽きに対する障壁としては早期に機能を失うこととなる。したがって、この手法のマンネリ化防止に対する効果は一般にそれほど高いものとはいえない。

 

3-1-2 制約

コマンドRPGに限らずおよそほぼ全てのゲームにはルール上に一定の制約があるが、その制約をシビアにすればするほどマンネリ化はしづらくなることが一般にいえるだろう。コマンドRPGにおいては、HPや所持金、ターン制であれば行動回数等が制約として設定されるが、ゲームが進むにつれてこの制約が緩やかになっていくタイトルが多い。DQにおける回復を例にとると、序盤にはHPやMP、所持金に余裕がないため、回復やアイテム使用のタイミングを見極める必要があり、これを誤ると容易に全滅を免れ得ない。これに対して、中盤以降ではプレイアブルキャラのHPが敵キャラの攻撃を基準に余裕ができる上、僧侶役の地位が確立し、豊富なMPで何度も回復できるため、全滅リスクは大幅に低下し、HPやMP管理についてもほとんど意識しなくてよいことになる。ここで、制約の緩和により、プレイヤーの戦闘に対する緊張感は大幅に低下することが認められる。緊張感の低下はプレイヤーに提供される刺激の低下を意味し、戦闘への慣れ、そして退屈感へと繋がり、マンネリをもたらす。したがって、戦闘のマンネリ化防止のためには制約を一定程度シビアにし、戦闘の緊張感を維持することが望ましいといえる。ロマンシングサガシリーズのLPシステムはこのような制約の設定として優れており、プレイアブルキャラの復活可能回数を制約し、そのキャラが文字通りゲームから除外されるリスクをプレイヤーに与えることで、ゲームの進行段階に関わらず戦闘に緊張感を持たせることに成功している*4
ただし、主軸に置かれたゲームデザインとの関係で、制約をシビアにすることを実現し得ない場合もあり得よう。例えば、ジョブシステムやロール設定の自由度の高さを特徴としたいくつかのタイトルでは、ある程度制約を緩和し、HPに余裕を持たせる等の対処をしなければ、回復専門職をパーティーに入れることが事実上強制されるといったことになり、ロール設定の自由度が限定され、そのゲームが持つ特徴、売りを一部損なうことになる*5。そのような場合にまでマンネリ化の防止を優先するべきかは疑問である。

 

3-1-3 アクション

コマンドRPGの基本形は、コマンドの選択によって直ちにそのキャラの行動が確定するというものであるが、コマンドを選択しただけではキャラの行動が確定しないシステムもしばしば見られる。アンダーテールでは、攻撃コマンドを選択した後、流れるバーをタイミング良く目押しで止めるというアクションを経て、攻撃の成否や威力が決定される*6。また、FF6のマッシュは格闘ゲームのようなコマンドを入力することで必殺技を使うことができる。このようなコマンド選択にプラスしてアクションの要素を入れる手法は、戦闘の度にプレイヤーをアクティブな状態にし、また、キャラの行動が必ずしも成功しないというリスクと緊張をプレイヤーに与え、プレイヤーに大きな刺激を提供する。
もっとも、アクションの内容や難易度によっては、戦闘のマンネリ化に対してさほど歯止めがかからず、かえってマンネリ化を加速させることも考えられる。
上述したFF6のマッシュの必殺技を例にとると、アクションの難易度を低く設定し、全ての技について技の発生に必要な格ゲーコマンドの長さを短くすると、プレイヤーが格ゲーコマンドを入力することに慣れやすく、必殺技を容易に出すことが可能となり、プレイヤーが受け取る刺激は早期に失われる。そして、コマンドの選択によって直ちにそのキャラの行動が確定する基本形と比較して技の発生に手間がかかる分、プレイヤーとしては簡単かつ確実に入力できる格ゲーコマンドを戦闘の度に入力しなければならないことが面倒に感じられ、マンネリを感じやすくなりかねない。
これに対して、アクションの難易度を高くして難しいコマンド入力を要求すると、プレイヤーがそのコマンドを完璧に入力できるようになるまでプレイヤーにとって新たな刺激であり続けるため、マンネリ化はしづらくなる。しかし同時に、プレイヤーにとってコマンド入力に失敗し続けることは一定のストレスとなり、不快感をもたらすおそれがあり、マンネリとは別の要因でゲームを放棄されかねない。
コマンド選択においてアクション要素を組み込むことは戦闘のマンネリ化防止に大きく貢献し得るが、その調整次第で毒にも薬にもなると考えられる。

 

3-2 要素の追加

3-2-1 新しい要素

ゲーム中の武器や魔法、パーティーメンバーの追加はコマンドRPGの醍醐味であり、一般に、戦闘において新たな刺激となる。しかし、ゲームの進行に応じて定期的に何らかの新要素を追加すれば、そのことから直ちに戦闘のマンネリ化を防止できるというわけではないことは経験則上明らかである。追加される新要素の内容や追加の方法によってはマンネリ化防止手法として上手く機能しないこともある。DQにおけるブーメランのように、単体攻撃しかできなかった状態から範囲攻撃を可能とする、攻撃範囲に変更をもたらす要素であればプレイヤーにとって強い刺激となる。これに対して、ひのきのぼうから攻撃力が上がるだけの石の剣が追加されただけでは刺激としては弱いだろう*7。また、FFシリーズではバフ・デバフ魔法が多数追加され、その度に新たな魔法を活用した戦闘を展開することが可能となるため、形式的には新たな刺激がプレイヤーに与えられることになる。ところが、実際には、そうした魔法を逐一使用するよりも普通に攻撃した方が簡単かつ確実に敵を倒すことができるため、一部の魔法はほとんど、或いは一度も使用されることがないままエンディングを迎えることが多い。この時、これらの新たな魔法の追加は、プレイヤーにとって事実上新たな刺激となり得ていない。
戦闘のマンネリ化防止という観点からは、刺激の強い新要素を定期的に追加するべきであるといえる。

 

3-2-2 他ジャンルのゲームの挿入

DQやFF等、主にビッグタイトルと呼ばれるゲームにおいて、コマンドRPGとは別の他ジャンルのゲームが挿入されることがある。DQであればカジノであり、FFであれば9のカードゲームがその例である。上述した新要素の追加が、戦闘においてプレイヤーに直接的に新たな刺激をもたらすのに対して、他ジャンルのゲームの挿入という手法は戦闘の連続性を遮断し、繰り返される戦闘によって低下した刺激の程度を一定程度リセットする効果があると考えられる。より具体的には、戦闘を何度も繰り返すことにより戦闘からプレイヤーが受け取る刺激は低下する一方であるが、他ジャンルのゲームを挟むことでその流れをせき止め、冒険を再開し再度戦闘を行う際には戦闘により得られる刺激の程度が復活する。平たく言えば気分転換である。
他ジャンルのゲームの挿入は寄り道という形でゲームに現れることが多いが、この寄り道にかける時間が長ければ長いほど、上述したリセットの効果、度合も大きいものとなると考えられる。しかし、寄り道をどの程度行うかは専らプレイヤーに委ねられているものが多く、その効果もある程度各プレイヤー依存とならざるを得ない*8

 

3-3 戦闘の回避

3-3-1 エンカウントの抑制

既に本稿では何度も述べている通り、戦闘のマンネリ化は戦闘を何度も繰り返すことにより生じる。そこで、エンカウント率を抑え、そもそも戦闘回数を少なくすることでマンネリ化を防止するという手法も有効であろう。ファミコンやスーファミのソフトであれば、限られた容量の中でプレイヤーが長時間遊ぶことができるようにエンカウント率を非常に高く設定していたという事情があるが、制作コストはかかるがマップやイベントを豊かにすることで長時間遊ぶことができるゲームを制作することができる今日においては、敢えてエンカウント率を高く設定すべき理由はない。
敵とのエンカウントを低下させる手法としては、ゲーム全体を通じてエンカウント率を低下させることが最もオーソドックスな手法であるが、よりきめ細やかな対応をしようとするのであれば、例えばゲームが一定程度進行した後は序盤の街付近では敵とエンカウントしなくなるといったシステムを取り入れることが考えられる。DQにおける「忍び足」のような、エンカウント率を低下させる技を中盤以降に習得できるようにし、その使用タイミングをプレイヤーに委ねるという手法も面白い。
また、以上の検討はランダムエンカウント形式を前提とするが、シンボルエンカウント形式を用いれば、エンカウントするか否かがある程度プレイヤーに委ねられていることから、エンカウントの抑制に繋がる。MOTHER2及び3では、シンボルエンカウント形式を採用しているが、パーティーのレベルよりも大幅に低いレベルの敵はフィールド上でパーティーから逃げるように移動するという仕様になっており、エンカウントを抑制する工夫として優れており、マンネリ化を防止効果として非常に強力である。

 

3-3-2 オート、ブースト機能

最近では、プレイヤーが操作しなくとも全自動で戦闘が進むオート機能や*9、敵とのエンカウント率を操作できるブースト機能が備わっているタイトルが多く、これらの機能によってプレイヤーは事実上戦闘を回避することが可能となり、そもそも戦闘を行わないためマンネリの問題も生じない。

 

3-3-3 ゲームボリュームの抑制

上述した2つの手法と同様の発想で、戦闘の機会を減らすことによりマンネリ化を防止しようとすると、ゲームボリュームそのものを薄くし、クリアまでに要する時間を短くすることが考えられる。ただし、ゲームのボリュームダウンを指向すると、制作者が本当に表現したいこと、盛り込みたいことを全て実現することが出来なくなるおそれがあり、ゲーム全体としての面白さが損なわれるという本末転倒な状態になりかねない。

 

4 おわりに

以上、コマンドRPGにおける戦闘のマンネリ化防止につき一定の効果があると考えられる手法について検討し、評価を加えたが、本稿で取り上げた手法がその全てというわけではない。戦闘によって得られる報酬の内容や種々のランダム性、戦闘の自由度等、戦闘のマンネリ化との関係で検討しがいのありそうな要素は枚挙にいとまがない。また、本稿で検討した手法は、実際のゲームでは複数が組み合わされて活用されることにも留意されたい。この点、個々の手法の一部を取り上げ、切り分けてその効果を検討した本稿はややフィクションであることは否定しがたいが、少なくともコマンドRPGにおける戦闘について、デザインの多様性や奥深さを示すことが出来たのではないだろうか。
最近では、龍が如く7、8や、FF7Rの戦闘システムが、コマンド制とアクション制を融合させ、コマンドRPGにおける戦闘の新たな在り方を示している。アクションRPGの人気は高まる一方だが、コマンドRPGとアクションRPGとではそれぞれ違った魅力があるはずであり、安易にコマンド制を放棄するのではなく、コマンドRPGにおける戦闘の可能性を模索するべきである。

*1:本稿における「戦闘」は、全て、いわゆるボス戦やイベント戦を除くエンカウントによる通常戦闘を指す。

*2:ゲームレビューはレビュアーの主観的な評価を多分に含むため、通常何かを証明する資料としては適さないが、ここでは少なくとも一プレイヤーが「戦闘がマンネリ化した」と感じたという事実から、そのマンネリ化を防止する手法、すなわちプレイヤーに「戦闘がマンネリ化した」と感じさせない手法が上手く機能していないことを示すことができる。

*3:例えば、以下でFF6のマッシュのコマンド入力を取り上げているが、これが戦闘のマンネリ化防止を主眼に置いた要素であるといえるかは疑問であろう。

*4:他にも同シリーズでは、後述するシンボルエンカウントや戦闘回数に応じて敵の強さが変わる(=どれだけレベルが上がっても常にギリギリの戦いを楽しむことができる)システムを採用しており、戦闘のマンネリ化防止に対して非常に力が入れられている。

*5:DQのいくつかのタイトルではこのような事態が生じる(ことがある)。

*6:アンダーテールをコマンドRPGというジャンルに含めることができるかは微妙である。

*7:ここでは、石の剣の追加が戦闘のマンネリ化を防止する効果としては弱いことを指摘するのみであり、攻撃力が上がるだけの石の剣を追加することを批判する趣旨ではない。むしろ、石の剣の追加はゲームデザインとしては自然だろう。

*8:他ジャンルのゲームを大胆に挿入した例として、アクションRPGではあるが、龍が如く5が挙げられる。同ゲームはどちらかというと複数のジャンルのゲーム集という性格が強いが、戦闘パートと狩猟や音ゲー、野球パートとが明確に区分されており、戦闘のマンネリ化防止という観点から見ると非常に成功した例であると認められる。

*9:MOTHER等、ファミコン時代からオート機能を備えたソフトはあったが、その精度は低かった。